Novation Nocturn レヴュー

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KX61 のコントローラは色々と残念なので他にフィジカルコントローラを調達することにした。で、Novation Nocturn を買った。Nocturn を選んだ理由は、ノブ同士の間隔が広くて(すごく大事)、小さくて(大事)、かっこいいから。Automap は使わずに汎用 MIDI コントローラとして Cubase の Quick Control や Remote Device にアサインして使う。

インストール

付属のインストール CD を使う必要はない。Novation のサイトに最新版のソフトウェアがあるのでそちらを使う。マニュアルの説明によれば、インストールウィザードの途中で Nocturn を PC に接続する指示があるのでそこで初めて接続しろと書かれているが、そのような指示はないままに Automap Manager の設定のみでインストールが終了する。インストールの終了後に PC と接続する。Automap Server を起動してエンコーダ類の LED が点灯すれば認識成功。
USB ハブを通しての接続だと認識に失敗した。一度ダイレクトポートに接続して認識させた後ハブ接続すると認識に成功するが、そのまま PC を再起動すると再び認識に失敗する。いったん認識が成功すれば使用できることから一概に電力問題とも考えにくいのが気になる。どのみちこういったものはハブ接続しないのがセオリーだが、持ち出して使う場合はノート PC のポート数を考えるとそうも言っていられないため、事前に相性問題をよく確認しておくこと。

インターフェイス

全高が 4cm, 操作子を除いた本体部は 2cm を切っており、従来の MIDI コントローラと比べて圧倒的に薄い。重量は 500g と標準的だが裏側のゴム製滑り止めがしっかりしているので設置の安定は良好。ひざの上におけてしまうので戯れに適当なエフェクトをふって DJ ミックスなんかをいじって遊んでいる。これ、ワイアレスだったら最高だった。
USB 以外の接続端子を持たず、使用時は常に Automap Sever プロセスと通信している必要がある。Automap Server は Cubase など DAW を起動すると連動して立ち上がる。電源が入るとエンコーダまわりとボタンがビカビカ光る。1つのエンコーダの外周に11の LED が配置されておりパラメータ量に合わせて点灯する。ノブの状態が一目で見て取れるのは便利だが、色が赤と緑の総喜色で全灯させるとだいぶ派手。もう少し落ち着いた配色の方が好みだ。
ノブはツメなしのスムーズなエンドレスロータリーエンコーダ。この価格帯としてはかなりよくやっている製品なのであまり不満は言わないが、エンコーダの品質にバラつきがある。僕の手元にある筐体では2番の遊びが異様に大きいのと7番のタッチセンスが反応しない。どちらも、どうしても困るものではないので気にしないことにする。クロスフェーダはかなり重めだがスムーズに動くのでクラビングでもしない限り特に不便はなさそうだ。
エンコーダに加速度設定はなく常に定量的に動作するが Automap Server のオプションから作用量を3段階から変更できる。Encorder Acceleration という名称だが実際は加速度ではなくノブの動作量に対するパラメータの変化量の変更である。どれだけ速く回そうが回した距離だけパラメータが変化する。"Fast" に設定すると望んだ動きになった。ミニマムからマックスまで一息にグリグリ上下できる。満足。
ボタンは16個配置され、うちアサイナブルは8個、残りはシステムの制御用にある。こちらの品質はエンコーダ部よりはるかに劣り、ボタンの感触がグニャグニャする上に時折チャタリング*1が発生する。補助的な用途には悪くないが頻繁な使用には耐えそうにない。
View ボタンを押すと Automap Universal ソフトウェアが表示される。これは最前面固定の半透明ソフトウェアインターフェイスDAW にオーヴァーラップして表示され、ノブの現在値とアサインされたパラメータを確認できる。ここからコントローラの設定を行う。デザインが未来的でかっこいい。

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speed dial

中央にある speed dial ノブだけは固定機能でこのノブだけツメがある。この speed dial 機能はマウスカーソルの下にあるソフトシンセなどのツマミを直接操作できるというものだが、その実際は、マウス左ドラッグ & 斜め移動というポインティング命令を送るという噴飯もの。当然動かすうちにカーソルはずれてターゲットから外れるし、だいたいソフトノブはそれぞれに上下、左右、環状など別々の動作特性を持っており画一的操作でコントロールできるようなものではない。こんな機能つかいません。
後述の MIDI コントローラモードではこのノブを押し込みながら回すことでプログラムチェンジを送れるが、本体でプログラムナンバを確認できるわけではないので現場ではあまり実用的ではないだろう。

Automapの概要

アクティヴプラグインを認識しコントロールマップを自動的に切り換えるという Novation Remote シリーズのハイライトである機能。
Plug-in Manager から Automap を利用したいプラグインを選んでラッパーを作成することで使用できる。ラップされたプラグインは filename (Automap).dll という形で存在する。通常 DAW は DLL ファイルネームとプラグインの固有 ID でプラグインを識別しており、同一で互換性のあるプラグインでも DLL ファイルネームを変更すると認識できなくなるのだが、Automap ラッパーは DLL ファイルネームが変更されているにも関わらず元のプラグインと同じように認識された。Cubase で試したところ、既に作成された過去のプロジェクトでも自動的にラッパーの方を読み込む。ラッパーをアンインストールすればプロジェクトはオリジナルの DLL をロードする。
この仕様は秀逸と言える。最も懸念される、もしラッパーによる問題が発生した場合に Automap の利用を中止してもプロジェクトへの影響はないし、もし Nocturn を手放してもプロジェクトの互換性の心配はないというわけだ。

Automapの利用

前述の理由からトラブルが起きても原因の切り分けが楽なのだが、トラブルの可能性自体を避けたいので僕は基本的に Automap を使うつもりはない。やはり DLL ラッパーというところに少なからず抵抗がある。Automap と MIDI モードが混在することで操作切り替えが煩雑になることも避けたい。
使わないが、一応どのようなものなのか軽く触ってみたところ、Focus Follow をチェックしてもアクティヴウィンドウのプラグインを自動認識しない不具合を確認した*2。最後に未表示状態から表示させたプラグインをターゲットし続ける。環境問題だと思うが、Nocturn や ReMote シリーズの Automap に多大な期待をかける購入予定者はこのトラブルにつまづくことになるかもしれない。

MIDIコントローラとしての利用

1ポートの仮想 MIDI ポートを使用して汎用 MIDI コントローラとして動作させられる。タスクトレイの Automap Server の設定から接続先の MIDI ポートを指定可能。DAW や ループバックドライバがなくてもスタンドアロンで好きなポートに接続できる。
出力できる MIDI メッセージは コントロールチェンジとノートナンバ (127ヴェロシティ固定)、およびピッチベンドのみ。speed dial からプログラムチェンジを送れるがプログラム送りは一つずつでプログラムナンバのジャンプは不可。
Automap Server は PC に登録されている MIDIバイスの認識数に上限があるようだ。最近のハードウェアはどれも自前の USB 接続ポートを持っていることが多いので例えば僕の環境では20以上の MIDI ポートが登録されているのだが、MIDI 入出力の選択候補として表示されないデバイスがあった。仮想 MIDI ドライバの MIDI Yoke を削除すると表示されなかったデバイスが現れるようになった。
また、PC の接続 MIDIバイス構成が変更されると、MIDI ポートの入出力先が勝手に変わってしまう。おそらくは MIDI ポートに内部的なポートナンバを割り振って管理しているための挙動と思われる。この点はひどく不便。MIDI 構成など機材の電源を入れなおすだけでコロコロ変わるのだからなんとか固定したい。

総評

フィジカルコントローラはそれ自体の性能よりもユーザの利用法によって評価が決まる。序文に書いたが僕にとって Nocturn の最大のアドヴァンテージは2点でノブの配置間隔とサイズの小ささだ。
僕みたいな、ツマミをむんずとつかんでエイヤっと回すと脳がしびれるタイプにとって、それを不自由なくやれる空間的余裕のあるコントローラの選択肢は著しく限定される。どれもこれも信じられないほど小さな操作子がせせこましくひしめきあっているものばかりだ。指3本で握れて、隣り合うノブを両手で回しても指が接触しないこと。Nocturn はこのニーズに応えてくれた。
サイズが小さいのも大事だ。スタジオだろうと現場だろうと機材の設置面積は少ないに越したことはない。僕はノブしか使わないので、スチール製のブックスタンドを折り曲げて Nocturn を立てかけて使っている。小型軽量の Nocturn だからこそできる設置法だ。
Nocturn はフィジカルコントローラでは最も安価な部類に属する。ハードの品質はそれほど高いものではないし、ソフトにも若干の不安定さがある。だが自分の求める用途と合致すれば他に替わりのない存在となるだろう。

*1:意図しない二度押し。接点に問題がある場合に起こる。

*2:Cubase 4.11 , Automap Universal 2.1.1234.7

KX61からVSTラックのソフトシンセをコントロールする


以前に書いたレヴュー記事Yamaha KX61 の AI Function では CubaseMIDI Track から VST ラックに接続する VSTi は操作できないと書いたが実現する方法があった。マニュアルには載っていないが、Cubase 4.1 から追加された Track Inspector の Quick Control 機能を使えば可能。
KX Editor から KX のコントロールテンプレートに "Audio Track" と "MIDI Track" を追加しておき、コントローラに Quick Control 1〜8 を使う分だけそれぞれ割り振っておく。Quick Control は MIDI Track のオートメーションに加えて接続先の MIDI デヴァイスからもパラメータを取得できる。つまり、Quick Control にパラメータを呼び出して、それを KX のコントローラから操作する形。VSTi だけでなくオーディオトラックのインサートエフェクトなどもいじれて便利だ。
ただし、今のところ Quick Control にはプリセット機能がないのでその都度パラメータをひとつずつ手動で設定する必要があるのが少々面倒くさい。

関連 :
Yamaha KX61 レビュー
Edirol PCR-800 vs Yamaha KX61 徹底比較

Virus TIを外部エフェクタとして使う

今更な話だが、Virus TI はハードウェア DSP エフェクタとして使える。外部入力に Virus のフィルタやディストーションをかけることができる。別に Virus に限らずたいていのシンセサイザには Ext In が用意されており、オシレータの通り道にあるフィルタエンジンやエフェクト、ヴォコーダを利用できるのだが、Virus TI の場合は VSTi から制御を行えるので Waldorf AFB16 のごとくソフト/ハード統合エフェクタとして扱えるのが面白い。

やり方

まず前提として4アウト以上のアナログアウトを持つインターフェイスが必要。一般に 1-2out をメインアウトとして使うので、ここに DAW のマスターアウトプットチャンネルを送る。これを便宜上 Stereo1 と呼ぶ。IF のルーティングで 1-2out に Monitor Mixer (IF ミキサ内の全チャンネル出力をまとめて IF の Main Out に送る機能) が出力されるように設定している場合はそれを解除しておかないと後で音が混じるので注意する。
次に、エフェクトをかけたいトラックを送るためのアウトプットチャンネルを用意する。これを Stereo2 と呼ぶ。Stereo2 を Virus のアナログインプットに接続する。これで準備完了。
エフェクトをかけたいトラックの出力先を Stereo2 に設定しておく。Virus Control を呼び出す。Virus TI はマルチパートなのでどのパートをエフェクタとして使うか選ぶ。選んだパートの FX セクションで Input から入力モードを選択する。Off で入力無し、Dynamic でパートへの MIDI ノートオンをキーインにして入力、Static で流れっぱなし。
エフェクトされた音はアナログ、S/PDIF、USB オーディオのどれからでもリターンできる。デジタルから戻すと使い勝手はソフトエフェクタと何も変わらない。返しのチャンネルの送り先を Stereo1 にしておくこと。Stereo2 と混じるとループバックして機材の健康を損なうことに。
特筆すべきは、この外部入力エフェクト機能と通常のシンセサイザ機能を同時に使えること。入力は 2ch なので複数系統の外部入力を個別に処理はできないが、出力はアナログ6ch + USB デジタル4ch の合計 10ch で外部入力の返しとシンセ音を DAW 上でパラ受けできる。このあたりのポテンシャルの高さも Virus TI の大きなアドヴァンテージだ。

エフェクト

外部入力に対するエフェクトとして使用できるのは、フィルタセクション、LFO および Mod マトリクス、FX セクションの EG を除く全エフェクト。外部入力をオシレータ扱いにして FM したりするのは無理。フィルタはエンヴェロープ以外の全機能を使える。
Virus TI のフィルタ構成はマッドだ。フィルタセクションにある2基のフィルタの他に、Amp サチュレーションの ヴァリエーションにあるフィルタとディストーション FX のヴァリエーションにあるフィルタがあり、最大で同時に4系統のフィルタをかけられる変態仕様となっている。
フィルタの色のほうは、普通に使えばいかにもデジタルなスパスパ切れるフィルタで、2基のフィルタを直列同期させて-36dB/Oct で使うと嘘みたいに落ちる。だがひとたび歪み系を Amp サチュレータ、Filter サチュレータ、ディストーション、アナログブースタ からよりどりみどり好き放題かませればとんでもない暴れたサウンドに化ける。どんなに歪ませてもバカみたいにゲインがブーストしたりしないので心おきなく音の破壊にいそしめる。
自分のリファレンス音源をエフェクトしてみるとただシンセサイザとして使っている時には気づかなかった特性が見える。フィルターのアナログシミュレーションモードは驚くほど歪むし、ディストーションは Type Off 以外を選択していると Intensity ゼロでも歪んでいる。
フィルタと歪みばかり書いたが他のエフェクトも良い。Virus TI の6ステージフェイザは隠れた最高級品だと思う。これに周波数のマニュアル制御か BPM シンクと LFO シンクができれば完璧だった。HyperSaw で分厚いフェイザパッドの白玉を作ったはいいが発音数が足りなくなってしまう場合に、パッドの和音を分解して複数パートにドライ録音したものを外部入力としてまとめてフェイザに突っ込みなおすという荒業が使える。リヴァーブはどうにも鉄板くさい音だが意外と大箱クラブの鳴りに近いのでシンセによくハマるし、ディケイ最大で30秒以上リヴァーブが続くアビスサウンドを作れる。みんな大好きヴォコーダもある。ディレイもコーラスも EQ もある。これらを全部、同時に、パート個別に使えるという、マルチエフェクタとしての威容をも誇る。

終わりに

DSP/VSTi シンセサイザとして注目を集める Virus TI だが、DSP エフェクタとしても刺激的なデバイスである。なお Powercore または TDM 版の Virus プラグインなら完全ソフト処理で Virus フィルタを利用できる。環境があればこちらも魅力的な使い方ができることを最後にお伝えしておく。

シェアウェアでモめた

事の成り行きを。トラブルシューティングに。

  • 海外からプラグインを買う。ドイツ製。国内代理店は無いので、直販。
  • 認証系に不具合が発生。
  • 使用環境と状況をまとめてデヴェロッパへメール。OS とホスト、ヴァージョンも伝える。日本人であることも伝えておく。英文だけでなくスクリーンショットも何枚か添えて説明する。
  • 原因を探しながら何度かやりとりする。アンチウィルスや FW を切れ、等。
  • 日本語 OS がくさいという流れになる。*1
  • 1週間ほどでモディファイ版が届くも問題解決せず。別の PC でも同じ問題が起こる。再現性がある。
  • モディファイ版が生成したエラーログを送り返す。加えていくつかの状況を報告する。文言での説明がややこしいものは DAW 上の操作をキャプチャして動画で送る。
  • 「いろいろ協力してくれてありがとう。約束の一週間で問題が解決しなかったのでひとまず代金を還付するよ。もちろんライセンスはそのまま使える。日本語 OS 届いたからこれからバグ取りするけど時間かかるかも。」
  • 還付金の受領には PayPal を使った。*2
  • 今に至る。プラグインはデモ版のまま使っている。

*1:舶来もののソフトばかり使うことになるのでシステムやファイルパスにマルチバイト文字の使用を避けるのは基本中の基本。できれば英語版 OS を使うのがベターなのだろうが、たいてい OEM 版で提供される国内のビルト PC では難しいのが実情だ。余談だが DAW も英語表記で使っている。日本語はどうも可読性と略記で劣る。Cubase のバスチャンネルに至っては今時半角カナ表記である。その上ユーザフォントも使用できない。文字の密度を上げたいのは分かるがそれはユーザのストレスを増やすだけの愚策だ。

*2:ちなみに PayPal は入金だけならカードや銀行口座を登録する必要はない。

Shure SM58の特徴

http://www.shure.com/stellent/groups/public/@gms_gmi_web_us/documents/web_resource/site_img_us_pro_sm58s_m.jpg
http://www.shure.com/ProAudio/Products/WiredMicrophones/us_pro_SM58-CN_content

  • ダイナミックマイク (ムービングコイル)
  • 単一指向性 (カーディオイド)
  • ライヴPAヴォーカルマイクのスタンダード
  • ヴォーカル用ハンドマイクとして設計された。オンマイクでの使用を想定している。そこで、マイクの近接効果によってオンマイクで低音がブーストするのを防ぐためにあらかじめ低域をカットしてある。当然オフマイクで使うと低音がスカスカになる。
  • 強力なウィンドスクリーンを使っておりポップノイズ耐性が高い。そのかわり高域の伸びが犠牲になっている。

周波数特性

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指向性特性

http://www.soundhouse.co.jp/shop/prod_img/s/shure_sm584.jpg

MIDIコントロールによる断続カーヴ・オートメーション

カーヴタイプに傾斜しか使えないオートメーション (AM) でジャンプを手っ取り早く擬似的に実現する方法。

準備

  1. エフェクトの AM の場合、使いたい種類のエフェクトの中から MIDI 入力に対応したプラグイン*1を選ぶ。
  2. AM したいパラメータをコントロールチェンジ (CC) で動かせる状態にする。
  3. MIDI トラック を作成、アウトプット先に AM したいプラグインを接続。

これで準備完了。やり方は2つある。

Step Designerを使う


MIDI Insert に Step Designer を呼び出す。Controllers Setup から AM するパラメータの CC ナンバーを選択。帯グラフ状に CC を記入できる。
Step Designer は放っておくと無限にシーケンスをループしているので、初期画面の Pattern 1 を空白としておき、Pattern 2 以降をエディットしていくと良い。パターン進行は MIDI ノートで操作できる。Pattern 1 = C1 から順に対応している。

Note 2 CCを使う


MIDI Insert に Note 2 CC を呼び出す。このエフェクトは、マニュアルのプラグインリファレンスによれば

入力される各MIDI ノートに対応して、MIDI コントロールイベントを生成するものです。コントロールイベントのコントロール値は、ノートナンバー(ピッチ)に対応します。

と説明されている。が、これは真っ赤な嘘で、実際にはノートナンバーに関係なくノートオンヴェロシティに感応して CC 値に変換される。MIDI トラックにノートを打ち込めばそのヴェロシティ値が CC に変換される。ノートオンされていない間の CC は常に0となるので、MIDI ノートは間を空けずに打つこと。

使い分け

それぞれの方法の利点。Step Designer は1台で2つのコントロールを送れる。また、1つのウィンドウでパターンを全て確認できるのでパートごとに MIDI エディタを開く Note 2 CC よりパターンを確認しやすい。
Note 2 CC はコントロールにヴェロシティを使うため、ヴェロシティ入力欄を大きく広げたり数値入力するなどきめ細かな編集がしやすい。また、SD のようにステップのクオンタイズが固定されないので複雑なリズムのパターンを自由に組める。

Cubaseのカーヴについて

Cubase のオートメーションエンヴェロープのカーヴタイプは2種類ある*2。Ramp (傾斜) と Jump (飛び値) の2種類で、Ramp ではオートメーションの点と点を直線で結び、Jump では直前の値から直角に曲がる。通常の連続的な変化には Ramp を使うが、値が階段状にガクガク動く、LFO で言うところの Sample & Hold の打ち込みには Jump が適している。
ところが、マニュアルにいわく、「パラメータによって適切なカーブタイプを自動選択します」。これがえらい大きなお世話*3で、ユーザは任意にカーヴタイプを選択できない。PAN やコントロールチェンジなどほぼ全てのオートメーションで Ramp が選択されてしまうが、こっちは Jump だって使いたいのだ。
Ramp で設定されたオートメーションで飛び値を取るには、ポイント A から B に変更するとき B と同じポジションに A の値も併記して (A') 直角の折れ線を書くしかない。この方法は保守性が低いのが難点になる。この手の数値決めはいかに手際よく試行錯誤できるかが重要になり、ポイントを2つずつ (A, A') 範囲選択して上下、範囲選択して上下……というのはかったるくてちょっとお話にならない。
上に紹介した方法は双方ともポインタの一筆書きでザクザク Jump を書ける。フィルタあたりのエフェクトなら付属の Step Filter を使えば済む話なのだが、この方法ならお気に入りのフィルタを使ってステップフィルタを作れる*4。しかし一度 CC に置き換えているため127以上の分解能を持つパラメータだとオートメーションしている正確な数値は分からなくなるので、サウンドメイクに使えてもミックスの段階ではあまり頼りたくない手法と言える。次のヴァージョンではカーヴの種類を自由に選べるようにして欲しい。

*1:プラグインを立ち上げると MIDI トラックのインプット/アウトプットに選択できるようになるもの。

*2:Cubase 4 のオートメーションエンヴェロープはあまり充実しているとは言えない。カーヴタイプが2種類しかないのは、言い変えれば関数曲線が用意されていないということだ。一応、おおまかな形の自動形成として数種類の関数があるにはあるが、それらも最終的に直線の組み合わせ (Ramp) で代理的に実現される。範囲が127しかないコントロールチェンジならまだ話はわからないでもないが、範囲が 20000Hz にも及ぶフィルタや ±4096 のピッチベンドに二次関数曲線を使っても3ポイント2ラインのカーヴで表現されるのはさすがにお粗末としか言い様が無い。

*3:基本的にバイパス等のボタン類以外のパラメータは全て Ramp に振られる。以前 Cubase 4.1 にアップデートした際に、あるシンセで本来 Ramp で動作するべきパラメータを全て Jump に誤認識するバグが起きた。仕方ないので解像度は落ちるが VST Remote をコントロールチェンジに移植して対応した。自分で Ramp / Jump 切り替えができさえすればこんな不具合に悩む必要も無かったと思うと今でも腹が立つ。

*4:MIDI 入力に対応している必要はある。

初期反射遅延から空間距離を規定する

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デジタルミックスにおけるエフェクトの感覚論はもはや全肯定される。何をやってもいい。だが、その物理効果について把握しているだろうか。リヴァーブに 100msec を超えるプリディレイを設定するとき、音響的にどのような仮想空間が現出するのか。本稿では一種の思考実験としてリヴァーブの初期反射と音響空間の距離関係を考察する。

残響について

リヴァーブ(残響音)について確認する。発せられた音が空気を伝播して物体に衝突する時、音響的に見て、反射・拡散・吸音の3つの現象が起こると考えられる。空気の振動が物体に伝わることで物体そのものが振動すると、それが新たな音源となり音を発することで反射・拡散が起こり、振動エネルギーが摩擦効果により熱エネルギーに変換されることで音は減衰し吸音が起こる。
反射とは一次反射を指す。一次反射とは音源からの直接音が一度だけ反射して聴き手に届く最短の反射である。これを初期反射 (Early Reflection) と呼ぶ。一次反射は物体に衝突することで二次反射を生み出し、さらに連鎖的に反射を繰り返すことでn次反射が起こる。
拡散とは二次反射以降の反射音の集合を指す。これを後部残響 (Late Reverberation) と呼ぶ。これら初期反射と後部残響を合わせたものを残響 (Reverberation) と呼ぶ。

初期反射の性質

後部残響は二次反射以降の高密度な反射の集合であるため原音の輪郭をなさないのに対し、初期反射はひとまとまりの音として認知できる。音の放射は全方位的であるため、直接音の入射角と聴き手への反射角が等しくなる面の数だけ初期反射は起こる。
音源と個々の初期反射面の距離の差が少ない場合ほど初期反射音は均等に届くためはっきりとした輪郭を持ち、逆に差が大きい場合ほど初期反射音は不揃いに届き、ぼやけていく。この性質は音源が音響空間に対しどのような位置関係にあるかを規定する要因となる。

遅延時間と音響空間距離の関係性

初期反射は最短の反射であることから、原音の発音から初期反射の到達までのタイムラグは音の伝播時間と考えることができる。この初期反射の遅延時間をデジタルリヴァーブではイニシャルディレイ、またはプリディレイと呼ぶ。
遅延時間=音の伝播時間であることから、プリディレイが長いほど直接音が壁にぶつかり反射し帰ってくるまでの伝播時間が長い、つまり空間が広大であることになる。このようにプリディレイの設定値によりデジタルリヴァーブは仮想空間の距離を規定することができる。
この関係を具体的に考えてみたい。1気圧下での音速は気温15℃のときおよそ 340m/s になる。音源と聴き手が同じ位置にあるとすると、音源の発音は 1msec につき0.34メートル進みながら初期反射として戻ってくる。このプリディレイに音速を掛けて1/2したものが初期反射面との距離になる。
次のように公式化できる。
C を音速 (m/msec)、E を初期反射遅延 (msec) とするとき、初期反射面と音源の距離 D (m) は
D=\frac{{E}{C}}{2}
となる。

例題

例えば、一辺の長さのそれぞれ等しい正六面体状のホールで、四方の一面にあるステージの中心でヴォーカルが歌っているとする。話を簡単にするため、このホールはステージと反対側の奥面のみ音を反射する材質だとする。彼に聞こえる歌声のプリディレイが120msec であるとき、このホールの一辺の長さは
\frac{120\times0.34}{2}=20.4
よって20.4メートルとなる。実際には奥行きからの初期反射が届く前に床と背面からは即座に、側面からは60msec の初期反射が先に届き、60msec 〜 120msec の反射が交じり合った音をひとかたまりの初期反射として聴くことになる。

デジタルオーディオへの応用

上記の関係性はそのままデジタルオーディオにも当てはめることができる。ミキシングにおいてヴォーカルに プリディレイ120msec のリヴァーブをかけるのは、その楽曲上で想定している仮想音響空間に20メートル強の奥行きを作るのと同義ということになる。これが何を意味し、どのような効果を生むのか、エンジニアは熟慮する必要がある。
また、リヴァーブによってシミュレートしたい部屋の大きさが事前に判っている場合、上記の式からプリディレイタイムを導くことでより質感を近づけることも可能になる。レコーディングスタジオの測量を行うことでレコーディングした素材に含まれるアンビエンスを逆相処理で消し去ることも、あるいは可能かもしれない。

エフェクトは何をやってもいい。ミキシングに際して曲中に別々のプリディレイを持ったリヴァーブがあるのはむしろ常套手段だ。プリディレイをテンポシンクすることでリズミックに使うこともある。現実の音と2mix は違うし、その利点を活用すべきだ。だが少なくとも、プリディレイと距離の実際の関係性を理解しておけば、アコースティックな楽曲中で「このギターは小さな部屋で鳴っているのにピアノは1000席を超える大ホールで鳴っている」といった不自然な空間処理に悩まされることはなくなる。
本稿は専門的な音響物理のためではなく*1、作曲家がある理解しておくべき音響物理への参考として書いている。現実の反射は例題のように単純なものではないため、初期反射から正確な距離を算出するのはより複雑になる。だが原理自体は同じであり、作曲・ミキシング上での参考値としては充分だろう。リヴァーブのプリディレイと空間距離の相関関係を把握することは、想像上では曖昧になりがちな仮想音響空間を実際の距離として実感し、ミックスにおいて音場をイメージする一つの指針になるだろう。

*1:そもそも僕にそんな専門知識はないです