Dominoを使ったスケッチ

http://www.tkb-soft.hmcbest.com/domino/ss_000.jpg
最近のテーマ、テンションとインスピレーションの発露、その実現プロセス。
鉄と鍵盤は熱いうちに打て。楽器というものはやりたい時やれるものでなければ駄目だ。優れた武道家が日常において常在戦場の心得を持つが如く、作曲に身を置くならばすぐさま音を出し書き留める環境が必要だ。その手段としての MIDI 機器と DAW であるが、これは遅すぎる。Cubase だの Live だのモジュールを読み込む DAW の立ち上がりは精神にとって久遠の如きタイムロスだ。オーディオ統合環境だの VST だのは省いてもいい、もっとインスタントな環境をこそ求める。やりたい時音が出て、それを書き留める、それだけに特化した環境。
そういった理由で MIDI シーケンサに着目した。DAW にその地位を簒奪されて久しいシーケンサだが、その死中にこそ活を見出すのだ。
音声処理を伴わない純粋な MIDI シーケンサのメリットは、

  • オーディオデバイスを占有しないためプロジェクトに読み込むことなくネイティヴ環境の音源を再生できる
  • DAW とは比較にならない高速なアプリケーションの立ち上がり

この2点に尽きる。
MIDI シーケンサには定評のある国産フリーウェア Domino を導入した。立ち上げると既にピアノロールとイヴェントリストが開いている。これだ、この速度こそ今欲しい。

導入・設定・運用

環境設定から MIDI の入出力デバイス設定を済ますだけで使えるようになる。

ピアノロール

ピアノロールでの編集は選択・作成・削除ごとに選択ツールを逐一変更する必要があり、やや冗長。F5 がセレクトツールとドローツールのトグルになっているのでマウスのサイドボタンに振っておき、マウスジェスチャDelete を送れるようにしておく。これでピアノロール編集に際し GUI ボタンや キーコマンドから開放された純粋なマウスオペレーションが可能になる。

リアルタイム入力

Ctrl + R でリアルタイム入力。メトロノームを鳴らすには環境設定から MIDI Output にMicrosoft GS Wavetable を追加しておけばメトロノーム設定で選択できる。

ステップ入力

ステップ入力のキーコマンドは初期で割り振られていないので適当に*1 Shift + S に振っておく。このステップ入力は特筆すべき優秀な機能だ。他の DAW がどうだか知らないが Cubase では相当頭を捻らないと実現できないタイ入力が簡単にできる*2
鍵盤を押しながら Spaceデュレーションを1ステップ延長、鍵盤を押さずに Space でカーソルを1ステップ進める。これだけ機能をつけてもらえればステップ入力の打ち込みスピードはリアルタイム入力すら凌駕することが可能だ。作者に惜しみない賞賛を贈りたい。Steinberg には爪の垢を飲ませてやりたい。

ひとまずこれだけできればスケッチ用途としては充分である。書き留めたフレーズは SMF でレンダリングしておき後ほどお気に入りの DAW に放り込んで心行くまで料理すれば良い。時を選ばず作曲の端緒をつけられることが何より大事なのだ。

余談

実は Steinberg プロダクツにも似たようなスケッチ構想概念は存在している。Sequel というエントリーユーザ向けのループベース DAW があるが、これには MIDI ループと呼ばれる ソフトシンセ、VST エフェクト、MIDI シーケンスといったフレーズ要素をひとつのファイルフォーマットにまとめる機能がある。Sequel で作成した MIDI ループは Cubaseサウンドフレームから閲覧・呼び出しが可能だ。
まさにネタ出しに最適な機能なのだが、MIDI ループファイルは Sequel でしか作成できない。Cubase 上でオートメーションを含めたシンセフレーズを作り溜めておければ随所で使いまわせてさぞ便利だろうとは思うのだが、ソフトとしてのスケッチ性は Cubase と大差ない(と思われる) Sequel をわざわざネタ出し用に使い分ける利点を残念ながら僕は知らない。1万円そこそこのソフトの機能くらい、10万円を超えるソフトにはつけておいて欲しいものだ。

*1:僕の Cubase と同じキーコマンド。キーコマンドは使用するソフトを通じてある程度共通にしておかないと後々頭がこんがらがって悲惨なことになる

*2:Cubase のタイ入力については後日別稿にて取り上げる予定

DR-670でStylus RMXを叩く

http://www.roland.co.jp/products/jp/DR-670/images/top_M.jpg
または、トリガーパッドの MIDI ノートナンバー入れ替え機能のないコントローラのための入力 MIDI ノートのトランスフォームマップ作成について。
Boss DR-670 を借り受けている。久々に触るハード音源だ。特に作曲用の音源としてではなく、PC には接続せずに音だけ出してドラムパッドを叩いて演奏、というか指ドラムで遊んでいる。手元に置いて電源入れっぱなしで気が向いた時にボコボコ叩いている。好きなときに音を出せる楽器があるというのは実に良い。ソフトシンセはいくらでもあるがあれは演奏用ではなく作曲用だ。プラグインホスト を介さないと音ひとつ出せない。楽器というのはやりたい時即座にやれるものだ。PC にばかり依存するとそんな当たり前のことも忘れてしまう。
そんなわけで心ゆくまで遊び倒していた DR-670 だったが、せっかく打ち込んでくれといわんばかりのドラムパッドがあるのだから、色々な音源の揃っている PC のドラムマシンを鳴らしてみたくなった。だが Battery のようなドラムキットだとセルが多すぎてほとんどのサンプルがパッドの範囲から外れてしまう。Stylus RMX であれば全てのループ素材が16分音符程度の間隔でスライスされて収録されている上、C1 から順に MIDI ノートへ割り振られている。DR-670 の4*4パッドならちょうど1小節分割り当てできる。渡りに船とはこのこと。
大抵のトリガーパッドコントローラがそうであるように DR-670 のパッドも MIDI ノート配列は下から C1, C#1, D1 ……といった順列ではなく GM ドラムキットに準拠してバラバラにノートが割り振られている。これを順列に入れ替えれば良い……と思ったが DR-670 はキットエディットで音色は入れ替えられるもののノートナンバー自体を入れ替えてコントローラとして使うことはできない。本稿ではそういったノートナンバー固定のトリガーパッドを Cubase を使ってソフトウェアレヴェルで変換する方法を提示する。

Chorderを使ったMIDIインプット・トランスフォーム

まず最初に DR-670 の設定をしておく必要がある。DR-670 はデフォルトの設定では MIDI ノートを出力しない。Shift + MIDI を押して MIDI モードに入り、ドラムパッドの出力チャンネルを決定する。

MIDI 入力を確保したら CubaseMIDI トラックを立ち上げ、MIDI Insert から Chorder を呼び出す。Chorder はシングルアクションでコードをトリガーするための MIDI エフェクトだが1ノートに対し1ノートをマッピングしていけば MIDI ノート・インプット・トランスフォーマとして利用できる。
設定に臨み、Chorder インターフェイス上鍵盤イラストの C1 の位置に注意。Chord Setup では 左から2番目、Trigger Note では左端から3番目の C が C1 になる。入力ノートを再生せず変換ノートのみを出力するには Thru をオフする。作成したコード変換表を保存する際、MIDI エフェクトのプリセット名には OS によるファイル名禁則文字が使えない。スラッシュなどを含む名前をつけて保存を実行すると保存に失敗する。この時特に警告されないので注意。機械的な打ち込みをしたい場合には Inspector の MIDI Modifiers から Vel. Shift を+126すれば強制的にフルオンヴェロシティで打ち込める。
以上で MIDI ノート変換が可能。この方法であれば GM 配列で固定されたトリガーパッドで 順列の音源を叩いたり、逆に Korg ElectribeRoland MC-909 といった本来外部コントローラとしての運用を想定されていない順列のトリガーパッド搭載ギアで BFD のようなドラム配列の音源に最適化することができる。
最後に、想像通り、いや想像以上に Stylus RMX をパッドで叩くのは気持ちいい。キーボードでも演奏は可能だがテンションが比較にならない。打鍵では不可能なフラミングやロールといった奏法もできる。Tube Limitter を甘く噛ませつつ Burning Grooves を叩きつける快感は麻薬的ですらある。かようにStylus RMX とトリガーパッドコントローラの組み合わせは凄まじい相乗効果を発揮する。興味のある人は試してみるといい。新しい世界が拓ける。

Edirol PCR-50のフットスイッチ極性反転設定

何度やっても忘れるので書いておく。
フットスイッチ(ダンパーペダル)はメーカーによって電気極性が異なることがあり反極性のキーボードと接続すると逆値をとる。つまり踏むとオフ、離すとオンになる。以下に PCR-30/50/80 シリーズのフットスイッチの極性値反転法を示す。

1. Edit ボタンを押す
2. フットスイッチを踏む
3. ディスプレイに "P1" と表示されるのを確認して Enter
4. 上に Control Change と書いてある鍵盤を押し、鍵盤の 1 を押す
5. ディスプレイに "CC1" と表示されるのを確認して Enter
6. 設定したい MIDI チャンネルを入力する
7. Enter
8. CCナンバー入力。ここでは "64" を入力 (GMCC64=Hold)
9. Enter
10. ディスプレイの表示が "‾--" となるのを確認
11. 上限値設定。"0" と入力
12. Enter
13.  ディスプレイの表示が "_--" となるのを確認
14. 下限値設定。 "127" と入力
15. Enter
16. ディスプレイの表示が "P--" となるのを確認
17. 出力ポート設定。ポート1で良い

以上。設定が済んだらメモリーバンクへ保存すること。(マニュアル64P)

要するにコントロール・チェンジの入力信号の下限値と上限値を反転させて本来の数値に変換している。詳細はマニュアル50ページの応用モード1を参照。

Yamaha KX61 レビュー

http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/cmp/kx/images/face_front_kx61_l.jpg
新しい鍵盤に Yamaha KX61 を買った。10日ほど使ってみて分かったことを書く。

Cubase との連動機能 (AI Function)

なんと言ってもまずこれ。VSTi ごとに4つのノブのコントロール・テンプレートを自動切換えする機能。便利なことは便利なのだが看板に偽りありと言いたい気分だ。
というのも、コントロール・テンプレート切り替え機能はインストゥルメントトラックでしか作動しない。普段は VST ラック経由でしかソフトシンセを鳴らしていなかったので自動切り換えが作動せず頭を抱えたものだった。
Novation の Remote はおそらくアクティヴウィンドウの VSTi によってテンプレートの自動切り替えを行うのだと思うが、AI Function で監視しているのはどうやらアレンジウィンドウ上の選択トラックのようで、そのため MIDI トラックを選択したところでアサイン先までは感知しない、という仕組になっているようだ。
インストゥルメントトラックは VSTi トラックと MIDI イベントを簡易に一つのトラックへまとめられる便利なトラックタイプではあるのだが、マルチティンバーとして使えない、MIDI エフェクト・MIDI センド・MIDI モディファイアが使えない、VSTi のマルチアウトができない、といった束縛がある。MIDI センドを使ったシンセのレイヤーなどは常套手段であるし、作曲の根幹になるシンセやサンプラーはほとんどがマルチアウトを前提にしているので、この制約は残念としか言い様がない。どこかに書いておいてくれ、そんな大事なこと。
AI Function 自体はなかなか便利で、コントロール・テンプレートにアサインする機能をコントロール・チェンジと Cubase が取得するリモートコントロールのどちらかから選択ができ、リモートを使えば MIDI の分解能127を超えた精密なエディットができる。たとえば、シンセの Filter Frequency をリモートコントロールから取得すれば、KX の液晶画面に「500Hz」といった形でシンセ固有のパラメータを表記してくれる。ソフトによってまれに取得できないパラメータがあるもののおよそスムーズに動作している。

鍵盤

前回の記事でボロクソにけなしてしまった鍵盤部だが、慣れればそう悪いものではないように思えてきた。その後何度か Edirol PCR-800 を触る機会があったのだが、今ではむしろ PCR の鍵盤より良いように思う。PCR の鍵盤にはない「押し返し」があるためだ。M-Audio の鍵盤のようにグニャグニャした感触ではなく、軽く手に吸い付く感じなのが良い。
どのみち鍵盤の良し悪しは主観が大きく入る部分なので、自分の印象を第一に考えるべき。値段相応なのだと思うし、ソフト鍵盤はどこまでいってもソフト鍵盤なのだろう。

サイズ

KX61 の寸法の大きさ、特に奥行きの長さを当初懸念していたが、実際に設置してみて困惑したのはむしろ鍵盤位置の高さだ。Edirol の歴代の PCR シリーズと比べると段違いに高いことがわかる。白鍵の高さが設置面から 7cm ほどになる。鍵盤をテーブル上で使う場合、この数字を大きく感じることになる。

ノブ

4つならんだノブの位置は鍵盤よりさらに高いため、長時間触っていると腕が痛くなる。このノブは回転に際しクリック感がある無限回転式ノブで、1クリックが1単位となる。精密な操作ができるのは良いのだが、あまりにみみっちくてイライラする気持ちのほうが強い。というのも、この1回転24クリックのノブで CC を 0 〜 127 まで上げ下げするにはまず1回転では済まないからだ。
ノブには加速検知があるため回す速度によって変化量を変えることはできるが、瞬間的な加速に対して敏感に反応する反面ゆったりした速度変化には全く反応しないため使いづらいことこの上ない。たとえば約2秒かけてフィルターを0-127の開放させるにはノブを3回転させる必要がある。2秒で3回転! ガリガリッ、ガリガリッ、ガリガリッ! やってられるか、そんなこと。
このノブの挙動に歓迎すべき精密さと多大なるストレスのどちらを感じるかは主観によるのだろう、僕は後者である。慣れればこれも良いのかも知れないが、正直なところ慣れる日の来る気がしない。KX の購入を検討している人へ、このノブの動作だけは絶対に確認しておくべきだと忠告したい。

アルペジオ

KX 本体のクロックで動作させる他、Cubase からクロックを受信してソングの進行に完全同期させることもできる。MIDI キーボードからソフトシンセをアルペジオで鳴らす場合、単なるテンポシンクだと「入力時の発音タイミングのズレがそのままソングの進行と同期する」というマヌケな現象が起こるが、KX と Cubase を組み合わせて使えば解決できる。これは賢い。ライヴ用のキーボードには必ず欲しい機能。
演奏したアルペジオCubaseMIDI トラックへ MIDI レコーディングできる。もちろんベタ弾きではなくバラバラのノートが記録される。これもなかなかうれしい機能。
収録パターンとしては、普通のアルペジオパターン以外にジャンル・楽器別に多くのフレーズが用意されている。音色のオーディション的に使えて面白い側面もあるのだが、シンプルにアルペジエイターとして使いたい場合の使い勝手は悪い。アルペジオタイプを選択するにはまずジャンル/カテゴリを選択し、それからパターンを選んでいかなければならない。
一見オーソドックスな仕様に思えるが、実際にアルペジオで操作したいのはもっとシンプルに、Up, Down, Chord といった大まかなヴァリエーション、次にオクターヴレンジ、それだけである。しかし KX 上のアルペジエイターで実現しようとすると、「Simple」だの「Classic」だのという鳴らしてみないとどんなパターンだか分からない名前をいちいち選ばなければならない上、オクターヴレンジ変更ボタンはない。複雑なユーザーパターンを作るための PC エディターもない。
本来何を割りあててもいい汎用コントローラのくせしてノブにださださの「Cutoff」「Resonance」なんてプリントしてあるんだから、AI Function でアサインしたコントロール・テンプレート上のノブコントロールを取得してアルペジオ・パラメータとしてパターンシーケンスできる、くらいのことはやってほしいもんだ。

バンドルソフト

概要は前回述べた。基本的にデモ版に毛の生えた内容なのだが、Halione One 用追加音色の Yamaha S90ES 抜粋のピアノはなかなか良い音だった。インストールはガイド PDF で指定されたディレクトリに手動でファイルコピーすることで行うのだが、それだけだとエラーが出て使用できなかった。Syncrosoft License Control Center のバージョンを最新へアップデートすると解決できた。

総評

詰めが甘い。それでも、キーボードとして、DAW コントローラとして、価格面で、などなど様々な条件を満たす唯一の製品だと思っている。対抗の Roland PCR-800 は悪くないがボタン類の配置が残念なのと DAW の連動性が判然としないし、Novation Remote は DLL ラッパー的な動作やドライバ認識プロセスが走るといった挙動に一抹の不安を感じるのと何より価格が高い。満足はできないが納得はした。
AI Function によるソフトシンセコントロールは実際使ってみて革新的な、すばらしい機能だと実感できた。しかしそれ以上に Yamaha の「わかってなさ」にもどかしい思いをさせられっぱなしだ。
なぜ、VSTi ラックにマウントしたソフトシンセで AI Function を使わせてくれないのか、なぜ、コントロールチェンジを最低値から最高値まで音楽的に動かすのにノブを3回転もしなければならないのか、なぜ、ノブがたったの4つでスライダーはないのか、なぜ、エクスプレッションペダルが接続できないのか、etc, etc...
……
Yamaha にはもっと外を見ろと言いたいです。他社の製品の良いところを積極敵的に研究し、より広くユーザーの意見に耳を傾けていれば、また違った形となって KX は生まれていたことでしょう。僕にははっきりと KX の悪い部分を指摘できますが、Yamaha の社内にそれを感じ取り言及できる人間はいるのでしょうか。僕には KX の仕様の随所に見て取れる「風通しの悪さ」が今の Yamaha の社風にそっくり表れているように思えてなりません。もし次の KX が出るとこがあれば、その時はこのもどかしさが消え去っていることを切に願います。

関連 :
KX61からVSTラックのソフトシンセをコントロールする方法
Edirol PCR-800 vs Yamaha KX61 徹底比較

Edirol PCR-800 vs Yamaha KX61 徹底比較

今最も興味深い MIDI キーボード・コントローラは Edirol PCR シリーズ、 そして Yamaha KX シリーズである。本稿では両機を PDF マニュアルおよび実機試用経験をもとに諸観点から比較分析する。

Edirol PCR-800
http://www.roland.co.jp/products/jp/PCR-800/images/top_L.jpg
Yamaha KX61
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/cmp/kx/images/face_front_kx61_l.jpg

価格・モデル

それぞれ鍵盤数の違う3モデルが用意されている。PCR では PCR-300 (32鍵), PCR-500 (49鍵), PCR-800 (61鍵)。KX では型番がそのまま鍵盤数になっており、 KX25, KX49, KX61 がある。

価格表(サウンドハウス調べ)
PCR-300 / KX25 PCR-500 / KX49 PCR-800 / KX61
Edirol PCR \23,700 \27,200 \31,800
Yamaha KX \27,200 \31,800 \35,200

価格は実売で数千円ほど PCR の方が割安となっている。この程度の価格差であれば機能で好きな方を選んだ方が良い。

サイズ - 省スペース性

奥行き 高さ 重量
PCR-800 1,002 mm 251 mm 91 mm 4.5 kg
KX61 937 mm 343.9 mm 114.6 mm 4.3 kg

KX の奥行き 35cm は同種のキーボードの中ではかなり大きな部類に入る。背面のケーブル接続を合わせれば 40cm はみておく必要がある。もう少しコンパクトにならなかったものか。Motif の筐体ラインを使い回ししているのではあるまいな。
PCR は多くの電子楽器と異なり電源やフットペダルの接続端子が鍵盤の背面ではなく左側面にある。省スペース性を確保する工夫なのだろうが、反面どうやってもケーブルを隠せない位置なのは一長一短といったところか。
省スペース性では PCR が有利。KX を導入する場合は事前に設置場所をよく考えておく必要があるだろう。

鍵盤

キーボードとしての最重要観点であるが、この価格帯の鍵盤ということで双方とも作りの安さはいなめない。どちらも簡易なソフト鍵盤でハンマーなどの高位なメカニカル機構は搭載されていない。はっきり言ってしまえば、双方とも質はあまり良くない。特に KX は悪い。最近のキーボードの中では KORG X50 の次に悪い。
PCR の方は過去の PC-80, PCR-80 シリーズとほぼ違いのない質感であり、打ち込みに支障はないが演奏の快感とはほど遠いレヴェル。KX の方は Motif の鍵盤からハンマーを抜いてペラペラに軽くした感触。ちなみに PCR にはアフタータッチ(チャンネル)に対応している。KX は未対応なので注意。
この手の安鍵盤で嫌なのはマキシマムヴェロシティで鍵盤を打ちぬくとベコバコやかましい音がすることだ。セミウェイテッドやハンマーアクションであればタントンといった音で済むのだが、こうバコベコやかましいと打楽器の試奏に問題が生じるし何より気分が萎える。KORG 製品の鍵盤であれば安物でもこの打鍵音は起こらない。
PCR の方が鍵盤に重みのある分多少マシだが双方ともマスターキーボードとしての品位は到底持ち得ないものである。汎用入力装置と割り切るしかない。

操作子 - ボタン・ノブ・スライダー

ノブ スライダー ボタン*1 パッド
PCR-800 9 10 7 18
KX61 4 0 2 0

単純にスペックで見れば PCR-800 の圧勝であるが、一概にそれが PCR を選ぶ理由とはなり得ない。実機を触って気づいたそれぞれの特徴を述べる。
PCR-800 のノブは従来の PCR-50 と比べ非常に小さくなっている。指2本で上からつまんで回すととなりのノブに指がぶつかり最後まで回し切れない。ひと回しで0から127まで回したければ指を横から入れて回すしかなく、実用的ではない。Roland は「ライブ・パフォーマンスにも最適」としているが、これではとてもライヴでのシンセ演奏には物足りない。詳細は後述するがモジュレーションホイールがないので一系統のみの代用もできない。
スライダーも PCR-50 より密集しており動きが硬くなっている。PCR-50 や JP-8080 のような手になじむスライダーデザインだと、慣れると指4本で ADSR Env をざざっと設定できるようになるのだが、そういった操作性は PCR-800 のスライダーにはない。詰め込みすぎなのだと思う。数が多いのは良いがもう少し配置に余裕が欲しかった。
KX のノブに大きさの問題はない。こちらは動作量で相対値を取る無限回転式になっている。DAWVST をコントロールするには無限回転式の方が適しているのだろう*2。回すとマウスホイールのようなクリック感がありガリガリと音がする。僕はなめらかな回し心地の方が好きなのだが、これは好みが分かれる部分だろう。
PCR のコントローラは操作すると現在のパラメータが液晶に数字表示されるのが大変便利なのだが、KX では表示されない。そのため、無限ノブ&数字表示なしという特性を考えると PC と連携せず直接音源を操作するようなライヴ用途には不都合がある。
操作子においては、DAW との親和性を重視するなら KX, とにかく操作子の数、特にスライダーに必要性を感じるならば PCR を選択することになる。KX にスライダーが一つもないのは残念。

操作子 - モジュレーション / ベンダー

PCRモジュレーションホイールはピッチベンドと一体型のスティックタイプ。KX は独立2系統のホイールとなる。PCR のスティックではモジュレーションに相当する Y軸も手を離すと初期位置に戻るため、小さくて使いにくいノブ類の代用コントローラとしても用途が限られる。KX25, 49KX ではホイールは鍵盤の左にあるのだが、KX61 では鍵盤の上に位置している。あまり見ないタイプなので使いやすさに多少疑問がある。
僕は一体型のXYスティックタイプが好きなのだが PCR-50 のスティックは大して使い込まぬうちから中のバネがカコンカコンと音を立てるようになったので今ひとつ品質に信用がない。Nord Leadのようになめらかな質感だと良いのだが。

操作子 - フットペダル

PCR は サスティン / エクスプレッションの二系統を接続できる。KX はサスティンのみで、KX にはエクスプレッションペダルを接続できない。なぜこんな、あって当たり前のものを省こうと思ったのか。ナンセンス。全国のペダラー憤慨すべし。
弦楽器の打ち込みなどにエクスプレッションペダルを使いたい場合は迷わず PCR を選択すること。KX でどうしてもエクスプレッションペダルを使いたい場合は EXP を接続できる他の機材を併用する等の工夫が必要になる。

DAWとの親和性

ここが作曲において最重要項目であり、PCR, KX の興味深い部分でもある。

KX の場合 - AI Functions

Motif XS 等の Yamaha 製ハードウェア向けに提供されている Extensions for Steinberg DAW という Cubase 拡張機能構想がある。YamahaSteinberg 買収における最大の成果だ。これに含まれる AI Function という機能によりソフトウェアとハードウェアの有機的連携が実現できる。
具体的には、アクティヴな VSTi を切り替えると KX61 上のコントロール・テンプレートが自動的に切り替わることにより、選択中のソフトシンセごとに KX61 のアサイナブルノブに最適なパラメータを自動的に割り振りしてくれるというものだ。この自動テンプレート切り替え機能は AI Function 以外では Novation ReMote シリーズのみが実現している次世代機能である。これこそが KX61 の革新的な部分であり、メインフィーチャーである。
コントロール・テンプレートには Native Instruments 等の主要な30種のソフトシンセがあらかじめ登録されているほか、Yamaha のサイトで公開されている KX Editor でユーザーカスタマイズが行える。

PCR の場合 - ダイナミック・マッピング

これが最重要項目であるに関わらず、散々調べたのだがはっきりしたことは分からない。なので下手な推測はここに書かず、Roland のサイトで説明されている部分を引用するに留める。

ソフトウェアとの連携をスムーズにするダイナミック・マッピング機能。

 ソフトウェアを機能的にコントロールできるダイナミック・マッピングを装備しています。ダイナミック・マッピングは、稼動中のソフトウェアがPCR本体を認識し、アクティブ・ウィンドウの主要パラメーターを自動的にフィジカル・コントローラーに合わせてアサインしてくれるインテリジェンス機能。ソフトごとに設定を切り換える必要がなく、スピーディかつシームレスなコントロールが可能です。
 また、ダイナミック・マッピング非対応のソフトウェアも、本体パネルでコントロール・マップを手動でセット・アップすれば操作可能。設定は、PCR本体の15のユーザー・メモリーに保存することができます。同梱のエディター・ソフトを使えば、さらにわかりやすくコントロール・マップを設定することができるので、使いやすい自由なセッティングにカスタマイズすることができます。
PCR-800 :: 製品 :: ローランド

「稼動中のソフトウェア」とは、「アクティヴ・ウィンドウ」とは、具体的にいったい何を指しているのだろう*3

DAW との連携機能において、KX61 が革新的な機能を有しており、これだけでも MIDI コントローラーの買い替えに充分魅力的な動機となり得る。PCR-800 に同等の機能があるのかどうか現時点では残念ながら不明だ。ソフトシンセメインの作曲を想定すると KX61 が先進的だが、やはり想定されたホストでこそ真価を発揮するものであり、自分の使用する DAW に合わせて選択するのが良い。

バンドルソフト

双方ともいろいろオマケがあるが、すべて大幅な機能限定版なので、あまり過度の期待はしない方が良い。
PCR には Cakewalk Production Plus Pack として自社製品を中心に、 DAW "Sonar 6 LE", パターンシーケンサ "Project5 LE", プレイバックサンプラー "D-Pro LE" が付属する。D-Pro*4 用追加コンテンツとして E-mu - Proteus 等過去のハードウェアの音色 ROM を収録したライブラリが販売されているので、それを目当てにするのも良いかもしれない。
KX には Cubase のライト版である Cubase AI4 の他、X Factor VST としてサードパーティーの簡易版 OEM が収録されている。内容は、IK Multimedia からマルチ音源 "Sample Tank X Factor Edition", アンプシミュレータ "Amplitube Duo", Sonic Reality から HALionOne 用追加ライブラリ "OneSoundz Silver Edition", "YAMAHA HALionOne S90ES Piano", ループ素材 "RAW loops YAMAHA Edition", FXpansion からドラム音源 "BFD Lite Ver1.5", Arturia から ヴィンテージVA シンセ "Analog Factory SE", その他 MIDI ループ集やビデオ教材となっている。
簡易版ではあるものの、Amplitube, BFD, Analog Factory はそれぞれの分野で最高峰の地位を得ているソフトであり、興味深いラインナップと言える。

総評

MIDI キーボード・コントローラとは音源を持たない、単独では成立しない楽器である。そのため何と組み合わせて使うかによって最適なものを選ぶ必要がある。
僕がマスターキーボードと DAW コントローラーを別々に用意せず、コントローラー / キーボード一体型の製品を望むのは、人間にとって最も道具を扱いやすい距離感というのはそう広くないと考えているからだ。手を伸ばせば届く範囲にいくら機材を置いても、アイディアを脊髄反射で実行できる最適な距離感というのは自ずと限定される。その距離感に最大効率的な操作子を配置できるのがキーボード・コントローラーなのだ。
本稿では最新かつ国内で最もコストパフォーマンスに優れる2機種を比較分析した。これらはマスターキーボードとしては決して優秀な製品だとは言えないが、DAW での作曲に必要な機能を広範囲に高いレヴェルで満たすものである。その中でも PCR は操作子の多様さ、KX は VSTi オペレーションにおいて群を抜く存在である。優良なインターフェイスを安価で発売してくれる Roland, Yamaha 両社に感謝したい。

参考 :
藤本健のDigital Audio Laboratory 第315回
PCR-300/500/800 取扱説明書 :: サポート :: ローランド
KX25 / KX49 / KX61 : ヤマハ マニュアルライブラリー

関連 :
Yamaha KX61 レビュー
KX61からVSTラックのソフトシンセをコントロールする方法

*1:ユーザーが任意のコントロール先を設定できるアサイナブルボタン数。ホスト・トランスポート等は含まない。

*2:絶対値だと実機のノブの位置とソフト上のパラメータが一致しない場合急激にパラメータが変わってしまうため。

*3:もし具体的に「DAW内で稼動している VSTi / DXi のアクティヴウィンドウの切り替えを検知」と記述してくれていれば、それは AI Function と同等の機能として検討するのだが。理由は不明だが、あえてぼかした説明をしている印象を受ける。

*4:国内外で製品呼称が変わる。国外では "Dimension-Pro" が製品名となる。

耳栓のスゝメ

http://1st.geocities.jp/mimisen_hikaku/image3.gif
人生において最高のコンディションで音楽を聴ける回数は有限である。音楽を愛する人間はこの事実をかみ締めるべきだ。

パーティーにおいて何が嫌かと問われれば下手糞な DJ が際限なく音量を上げていくほど不快なことはない。ミックスが下手なDJはその手腕により生じるトラックの勢いの減衰をゲインの増量で誤魔化そうとするためだ。結果ミキサーの VU メーターはレッドゾーンをぶっちぎりフロアは阿鼻叫喚の音地獄に陥る。事ここに至ってなお DJ ブースではフロアの音を把握できないという状況がこのネガティヴループに拍車をかける。DJ が難聴になるのは勝手だ付き合わされる方はたまったものではない。
耳とは命と同じ、一生かけて使う消耗品である。刺激により経年により外有毛細胞は死に絶え聴覚神経は寸断されていく。換えのきかない消耗品なのだ。使えば使うほど耳は劣化していく。劣化が不可避でも耳をどう使うかは選びたい。無駄な音など 1dB たりとも耳に入れるべきではない。自衛力が必要だ。

Moldexの耳栓を試す

耳栓を買う。クラブで使うためだけの耳栓なのでとにかく遮音性の強力なものを探した。海外製の評判が良いようだ。耳栓 比較資料から Moldex 社にあたりをつけて、3種類ほど試用した。国内では商業流通していないので個人輸入家からネットオークションを通じて購入できる。

//www.moldex.com/canada/foamplugprod/camoplugs.htm">Camo Plugs:Moldex の標準プラグ。野戦迷彩風のマーキングが物々しい。僕には少し大きいようで許容し難い圧迫感があった。体格差と同じように耳の大きさにも欧米人と日本人では差があるのだろうか。少なくとも女性にはあまり向かないと思う。
//www.moldex.com/canada/foamplugprod/sparkplugs.htm">Spark Plugs:Camo より一回り細い。アメリカ最大のモータースポーツ統括団体 NASCAR の公認とのこと。僕の耳にはこれが適っていた。遮音性能は Camo と違いを感じない。
//www.moldex.com/canada/foamplugprod/purafit.htm">Pura Fit:Camo より太いが柔らかい。これはうまく耳にはまらなかった。装着にコツがいる。Camo 同様耳の小さい人には向かないと思われる。もっとも、自分の耳の大小を知る人間なんてそういないだろうが。

装着

スポンジ状であり装着には先を丸めて耳に挿入しスポンジが膨張するのを待つ。手早くやっても完了に30秒程度かかるのは実用面での不安を残す。一旦装着してしまえば外界の音はほとんど遠のく。
代わりに体内音の大きさに驚かされる。強く耳を塞ぐと聞こえるあの地鳴りのような音。血流、筋収縮、関節稼動、その一挙手一投足に気が狂いそうな音を立てる。これではとても安眠などには使えないだろう。耳栓を外した方がよっぽど静かなくらいだ。

遮音性能

装着すると手で耳を塞いでも音の聴こえ方に変化がなくなる。テレビの音程度ならほぼ完全に聴こえなくなる。会話は充分可能だが相手の声よりむしろ自分の発音を確認し難いため滑舌に影響が出る。
音楽をかけてみると、ハイハットの音が完全に聴こえなくなることから 3kHz より上は断絶する。サブウーファーのみの音もほとんど感じられないので 100Hz 以下も大幅に低減される。その他の音域はバランスを保ちつつ遮音される。

総評

遮音性能には全く問題ない。むしろ感動的ですらある。しかし装着の手間および装着感には不満がある。多少性能に劣っても素早く着脱可能で装着感の良好なものを探すべきかもしれない。
耳栓はカタログスペックよりも自分の耳に合っているかどうかが大事だ。耳の形状に適合しないと本来の性能を発揮できないばかりか耳を傷つけてしまう。もっとも本質的にはいかなる耳栓だろうと耳にダメージを与える潜在的な可能性があるので、そもそも耳栓を使うような状況を避けるのが最大の自衛であることに変わりない。しかし、音楽イベントを楽しみ、かつ耳の保護を考えるのならば、耳栓をひとつポケットに忍ばせておくのが賢明だ。

DNA - 驚愕のMelodyne新機能

http://www.celemony.com/cms/uploads/pics/dna_big_03.gif
先日ピッチ補正ソフトの比較記事を書いたが、そこで取り上げた Celemony Melodyne に関する新技術が 3/12からフランクフルトで開催されている Musikmesse 2008 で発表された。次期バージョンに順次搭載される予定だ。
Direct Note Access (DNA) と名づけられたこの新技術では、オーディオの中に存在する異なるピッチを検出し、個別に編集できる。驚愕のトレーラームーヴィーでその様子を確認できる。
実際にこのトレーラーと同じパフォーマンスを発揮するのならば、音楽製作の常識を一変させかねない。特にサンプリング音楽にとっては革命的な機能だと思う。もうただのヴォーカル修正ソフトとは到底呼べなくなった。音には次数倍音の公約数があるため実際はそううまくいかないと思うのだが、果たして。
とりあえず僕はこのトレーラー見て即効で Melodyne Plugin 注文しました。3/12以降に登録したユーザーは今秋発売予定の Melodyne Plugin 2 への無償アップデートが可能。いやあ秋が楽しみだ。Omnisphere も控えていることだし。