サイドチェイン・テクニクス

サイドチェインとはエフェクタの制御信号として別のチャンネルの信号を利用する外部入力方式である。

ゲート

キックなどの無音階楽器の超低音を EQ でブーストする替わりにブーストポイントの周波数のサイン波でサブベースを混ぜてやるという技がある。無い袖は振れぬ、ならば足すという考え方。本来キックに含まれない周波数を加える事で EQ の限界を超えた低音の量感調整が調整可能になる。
平均律音階周波数対応表 - underthemoon@hatena

上記の手法はバンド PA の現場でも応用できる。まずシンセサイザなどからサブベース音を出し続けておく。サブベースの出力をノイズゲートに通し、ノイズゲートのキーインへキックの出力を分岐した信号をサイドチェインする。これでキックの入力でゲートが開放したときにだけキックの音とサブベースが同時に出力される。これらをミキサで混ぜ合わせてキックの低域補強として使われる。

コンプレッサ

サイドチェインによるベース制御は近年のエレクトロミュージックにおいてダッキングサウンドとして加熱し続けている。前述のゲートはベースエンハンサ的な用途だがこちらはダイナミクスコントロールである。コンプレッサによるパンピング効果を過剰化したもので、本来の持続音がキックでブツ切りにされては迫り上がってくるように変化する。
こちらではゲートではなくコンプレッサを使う。ベースに挿したコンプレッサにキックをサイドチェインする。コンプレッサのアタックタイムを最小、リリースタイムを曲のテンポで8分音符あたりになるよう設定すると、ゲインリダクションに応じて持続音のベースが裏打ちで波打っているようなサウンドに変化する。そのままスレッショルドを下げ続けるとやがてキックが鳴るときはベースの音が消えるようになる。
ベース以外にもストリングスやリードといった白玉パートに好んで用いられ、極端なものになるとキック以外すべてのパートにまとめてかかっていたりする。最も多く耳にするのはホワイトノイズとフィルタを組み合わせた効果音だろう。いずれも裏拍の強調効果*1がある。
サイドチェインコンプレッションはサウンドメイクからミキシングにまで幅広く使えるテクニックだ。最近はどの DAW でもサイドチェインに対応し始めているので簡単に試せる。それでも飽き足らなくて結局は自分でフェーダーを書き込むなんてことも多いが。
本稿はエントリ"平均律音階周波数対応表"の派生項をエントリ化したものです。

*1:裏拍の強調効果のメカニズム──4ビートミュージック、特にダンスミュージックは表拍で身体に一定のベクトルがかかり続ける音楽だと考えることができる。一概はできないが、例えばジャンプスタイルなら上方向、ハンマービートなら下方向といったような具合で、重力方向に従うか反発するか、要はキックに合わせて体が飛ぶか沈むかという話である。裏拍ではこれら表拍のベクトルに対する助走効果が求められる。表拍が押す印象を与えるのに対し、裏拍は引く印象を与える。引きの裏拍をうまく強調できるほど表拍のインパクトも増大する。グルーヴの進化の歴史はいかに表拍と裏拍を効果的に組み合わせるかの研鑽の歴史と言える。