Novation Nocturn レヴュー

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KX61 のコントローラは色々と残念なので他にフィジカルコントローラを調達することにした。で、Novation Nocturn を買った。Nocturn を選んだ理由は、ノブ同士の間隔が広くて(すごく大事)、小さくて(大事)、かっこいいから。Automap は使わずに汎用 MIDI コントローラとして Cubase の Quick Control や Remote Device にアサインして使う。

インストール

付属のインストール CD を使う必要はない。Novation のサイトに最新版のソフトウェアがあるのでそちらを使う。マニュアルの説明によれば、インストールウィザードの途中で Nocturn を PC に接続する指示があるのでそこで初めて接続しろと書かれているが、そのような指示はないままに Automap Manager の設定のみでインストールが終了する。インストールの終了後に PC と接続する。Automap Server を起動してエンコーダ類の LED が点灯すれば認識成功。
USB ハブを通しての接続だと認識に失敗した。一度ダイレクトポートに接続して認識させた後ハブ接続すると認識に成功するが、そのまま PC を再起動すると再び認識に失敗する。いったん認識が成功すれば使用できることから一概に電力問題とも考えにくいのが気になる。どのみちこういったものはハブ接続しないのがセオリーだが、持ち出して使う場合はノート PC のポート数を考えるとそうも言っていられないため、事前に相性問題をよく確認しておくこと。

インターフェイス

全高が 4cm, 操作子を除いた本体部は 2cm を切っており、従来の MIDI コントローラと比べて圧倒的に薄い。重量は 500g と標準的だが裏側のゴム製滑り止めがしっかりしているので設置の安定は良好。ひざの上におけてしまうので戯れに適当なエフェクトをふって DJ ミックスなんかをいじって遊んでいる。これ、ワイアレスだったら最高だった。
USB 以外の接続端子を持たず、使用時は常に Automap Sever プロセスと通信している必要がある。Automap Server は Cubase など DAW を起動すると連動して立ち上がる。電源が入るとエンコーダまわりとボタンがビカビカ光る。1つのエンコーダの外周に11の LED が配置されておりパラメータ量に合わせて点灯する。ノブの状態が一目で見て取れるのは便利だが、色が赤と緑の総喜色で全灯させるとだいぶ派手。もう少し落ち着いた配色の方が好みだ。
ノブはツメなしのスムーズなエンドレスロータリーエンコーダ。この価格帯としてはかなりよくやっている製品なのであまり不満は言わないが、エンコーダの品質にバラつきがある。僕の手元にある筐体では2番の遊びが異様に大きいのと7番のタッチセンスが反応しない。どちらも、どうしても困るものではないので気にしないことにする。クロスフェーダはかなり重めだがスムーズに動くのでクラビングでもしない限り特に不便はなさそうだ。
エンコーダに加速度設定はなく常に定量的に動作するが Automap Server のオプションから作用量を3段階から変更できる。Encorder Acceleration という名称だが実際は加速度ではなくノブの動作量に対するパラメータの変化量の変更である。どれだけ速く回そうが回した距離だけパラメータが変化する。"Fast" に設定すると望んだ動きになった。ミニマムからマックスまで一息にグリグリ上下できる。満足。
ボタンは16個配置され、うちアサイナブルは8個、残りはシステムの制御用にある。こちらの品質はエンコーダ部よりはるかに劣り、ボタンの感触がグニャグニャする上に時折チャタリング*1が発生する。補助的な用途には悪くないが頻繁な使用には耐えそうにない。
View ボタンを押すと Automap Universal ソフトウェアが表示される。これは最前面固定の半透明ソフトウェアインターフェイスDAW にオーヴァーラップして表示され、ノブの現在値とアサインされたパラメータを確認できる。ここからコントローラの設定を行う。デザインが未来的でかっこいい。

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speed dial

中央にある speed dial ノブだけは固定機能でこのノブだけツメがある。この speed dial 機能はマウスカーソルの下にあるソフトシンセなどのツマミを直接操作できるというものだが、その実際は、マウス左ドラッグ & 斜め移動というポインティング命令を送るという噴飯もの。当然動かすうちにカーソルはずれてターゲットから外れるし、だいたいソフトノブはそれぞれに上下、左右、環状など別々の動作特性を持っており画一的操作でコントロールできるようなものではない。こんな機能つかいません。
後述の MIDI コントローラモードではこのノブを押し込みながら回すことでプログラムチェンジを送れるが、本体でプログラムナンバを確認できるわけではないので現場ではあまり実用的ではないだろう。

Automapの概要

アクティヴプラグインを認識しコントロールマップを自動的に切り換えるという Novation Remote シリーズのハイライトである機能。
Plug-in Manager から Automap を利用したいプラグインを選んでラッパーを作成することで使用できる。ラップされたプラグインは filename (Automap).dll という形で存在する。通常 DAW は DLL ファイルネームとプラグインの固有 ID でプラグインを識別しており、同一で互換性のあるプラグインでも DLL ファイルネームを変更すると認識できなくなるのだが、Automap ラッパーは DLL ファイルネームが変更されているにも関わらず元のプラグインと同じように認識された。Cubase で試したところ、既に作成された過去のプロジェクトでも自動的にラッパーの方を読み込む。ラッパーをアンインストールすればプロジェクトはオリジナルの DLL をロードする。
この仕様は秀逸と言える。最も懸念される、もしラッパーによる問題が発生した場合に Automap の利用を中止してもプロジェクトへの影響はないし、もし Nocturn を手放してもプロジェクトの互換性の心配はないというわけだ。

Automapの利用

前述の理由からトラブルが起きても原因の切り分けが楽なのだが、トラブルの可能性自体を避けたいので僕は基本的に Automap を使うつもりはない。やはり DLL ラッパーというところに少なからず抵抗がある。Automap と MIDI モードが混在することで操作切り替えが煩雑になることも避けたい。
使わないが、一応どのようなものなのか軽く触ってみたところ、Focus Follow をチェックしてもアクティヴウィンドウのプラグインを自動認識しない不具合を確認した*2。最後に未表示状態から表示させたプラグインをターゲットし続ける。環境問題だと思うが、Nocturn や ReMote シリーズの Automap に多大な期待をかける購入予定者はこのトラブルにつまづくことになるかもしれない。

MIDIコントローラとしての利用

1ポートの仮想 MIDI ポートを使用して汎用 MIDI コントローラとして動作させられる。タスクトレイの Automap Server の設定から接続先の MIDI ポートを指定可能。DAW や ループバックドライバがなくてもスタンドアロンで好きなポートに接続できる。
出力できる MIDI メッセージは コントロールチェンジとノートナンバ (127ヴェロシティ固定)、およびピッチベンドのみ。speed dial からプログラムチェンジを送れるがプログラム送りは一つずつでプログラムナンバのジャンプは不可。
Automap Server は PC に登録されている MIDIバイスの認識数に上限があるようだ。最近のハードウェアはどれも自前の USB 接続ポートを持っていることが多いので例えば僕の環境では20以上の MIDI ポートが登録されているのだが、MIDI 入出力の選択候補として表示されないデバイスがあった。仮想 MIDI ドライバの MIDI Yoke を削除すると表示されなかったデバイスが現れるようになった。
また、PC の接続 MIDIバイス構成が変更されると、MIDI ポートの入出力先が勝手に変わってしまう。おそらくは MIDI ポートに内部的なポートナンバを割り振って管理しているための挙動と思われる。この点はひどく不便。MIDI 構成など機材の電源を入れなおすだけでコロコロ変わるのだからなんとか固定したい。

総評

フィジカルコントローラはそれ自体の性能よりもユーザの利用法によって評価が決まる。序文に書いたが僕にとって Nocturn の最大のアドヴァンテージは2点でノブの配置間隔とサイズの小ささだ。
僕みたいな、ツマミをむんずとつかんでエイヤっと回すと脳がしびれるタイプにとって、それを不自由なくやれる空間的余裕のあるコントローラの選択肢は著しく限定される。どれもこれも信じられないほど小さな操作子がせせこましくひしめきあっているものばかりだ。指3本で握れて、隣り合うノブを両手で回しても指が接触しないこと。Nocturn はこのニーズに応えてくれた。
サイズが小さいのも大事だ。スタジオだろうと現場だろうと機材の設置面積は少ないに越したことはない。僕はノブしか使わないので、スチール製のブックスタンドを折り曲げて Nocturn を立てかけて使っている。小型軽量の Nocturn だからこそできる設置法だ。
Nocturn はフィジカルコントローラでは最も安価な部類に属する。ハードの品質はそれほど高いものではないし、ソフトにも若干の不安定さがある。だが自分の求める用途と合致すれば他に替わりのない存在となるだろう。

*1:意図しない二度押し。接点に問題がある場合に起こる。

*2:Cubase 4.11 , Automap Universal 2.1.1234.7