Yamaha KX61 レビュー

http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/cmp/kx/images/face_front_kx61_l.jpg
新しい鍵盤に Yamaha KX61 を買った。10日ほど使ってみて分かったことを書く。

Cubase との連動機能 (AI Function)

なんと言ってもまずこれ。VSTi ごとに4つのノブのコントロール・テンプレートを自動切換えする機能。便利なことは便利なのだが看板に偽りありと言いたい気分だ。
というのも、コントロール・テンプレート切り替え機能はインストゥルメントトラックでしか作動しない。普段は VST ラック経由でしかソフトシンセを鳴らしていなかったので自動切り換えが作動せず頭を抱えたものだった。
Novation の Remote はおそらくアクティヴウィンドウの VSTi によってテンプレートの自動切り替えを行うのだと思うが、AI Function で監視しているのはどうやらアレンジウィンドウ上の選択トラックのようで、そのため MIDI トラックを選択したところでアサイン先までは感知しない、という仕組になっているようだ。
インストゥルメントトラックは VSTi トラックと MIDI イベントを簡易に一つのトラックへまとめられる便利なトラックタイプではあるのだが、マルチティンバーとして使えない、MIDI エフェクト・MIDI センド・MIDI モディファイアが使えない、VSTi のマルチアウトができない、といった束縛がある。MIDI センドを使ったシンセのレイヤーなどは常套手段であるし、作曲の根幹になるシンセやサンプラーはほとんどがマルチアウトを前提にしているので、この制約は残念としか言い様がない。どこかに書いておいてくれ、そんな大事なこと。
AI Function 自体はなかなか便利で、コントロール・テンプレートにアサインする機能をコントロール・チェンジと Cubase が取得するリモートコントロールのどちらかから選択ができ、リモートを使えば MIDI の分解能127を超えた精密なエディットができる。たとえば、シンセの Filter Frequency をリモートコントロールから取得すれば、KX の液晶画面に「500Hz」といった形でシンセ固有のパラメータを表記してくれる。ソフトによってまれに取得できないパラメータがあるもののおよそスムーズに動作している。

鍵盤

前回の記事でボロクソにけなしてしまった鍵盤部だが、慣れればそう悪いものではないように思えてきた。その後何度か Edirol PCR-800 を触る機会があったのだが、今ではむしろ PCR の鍵盤より良いように思う。PCR の鍵盤にはない「押し返し」があるためだ。M-Audio の鍵盤のようにグニャグニャした感触ではなく、軽く手に吸い付く感じなのが良い。
どのみち鍵盤の良し悪しは主観が大きく入る部分なので、自分の印象を第一に考えるべき。値段相応なのだと思うし、ソフト鍵盤はどこまでいってもソフト鍵盤なのだろう。

サイズ

KX61 の寸法の大きさ、特に奥行きの長さを当初懸念していたが、実際に設置してみて困惑したのはむしろ鍵盤位置の高さだ。Edirol の歴代の PCR シリーズと比べると段違いに高いことがわかる。白鍵の高さが設置面から 7cm ほどになる。鍵盤をテーブル上で使う場合、この数字を大きく感じることになる。

ノブ

4つならんだノブの位置は鍵盤よりさらに高いため、長時間触っていると腕が痛くなる。このノブは回転に際しクリック感がある無限回転式ノブで、1クリックが1単位となる。精密な操作ができるのは良いのだが、あまりにみみっちくてイライラする気持ちのほうが強い。というのも、この1回転24クリックのノブで CC を 0 〜 127 まで上げ下げするにはまず1回転では済まないからだ。
ノブには加速検知があるため回す速度によって変化量を変えることはできるが、瞬間的な加速に対して敏感に反応する反面ゆったりした速度変化には全く反応しないため使いづらいことこの上ない。たとえば約2秒かけてフィルターを0-127の開放させるにはノブを3回転させる必要がある。2秒で3回転! ガリガリッ、ガリガリッ、ガリガリッ! やってられるか、そんなこと。
このノブの挙動に歓迎すべき精密さと多大なるストレスのどちらを感じるかは主観によるのだろう、僕は後者である。慣れればこれも良いのかも知れないが、正直なところ慣れる日の来る気がしない。KX の購入を検討している人へ、このノブの動作だけは絶対に確認しておくべきだと忠告したい。

アルペジオ

KX 本体のクロックで動作させる他、Cubase からクロックを受信してソングの進行に完全同期させることもできる。MIDI キーボードからソフトシンセをアルペジオで鳴らす場合、単なるテンポシンクだと「入力時の発音タイミングのズレがそのままソングの進行と同期する」というマヌケな現象が起こるが、KX と Cubase を組み合わせて使えば解決できる。これは賢い。ライヴ用のキーボードには必ず欲しい機能。
演奏したアルペジオCubaseMIDI トラックへ MIDI レコーディングできる。もちろんベタ弾きではなくバラバラのノートが記録される。これもなかなかうれしい機能。
収録パターンとしては、普通のアルペジオパターン以外にジャンル・楽器別に多くのフレーズが用意されている。音色のオーディション的に使えて面白い側面もあるのだが、シンプルにアルペジエイターとして使いたい場合の使い勝手は悪い。アルペジオタイプを選択するにはまずジャンル/カテゴリを選択し、それからパターンを選んでいかなければならない。
一見オーソドックスな仕様に思えるが、実際にアルペジオで操作したいのはもっとシンプルに、Up, Down, Chord といった大まかなヴァリエーション、次にオクターヴレンジ、それだけである。しかし KX 上のアルペジエイターで実現しようとすると、「Simple」だの「Classic」だのという鳴らしてみないとどんなパターンだか分からない名前をいちいち選ばなければならない上、オクターヴレンジ変更ボタンはない。複雑なユーザーパターンを作るための PC エディターもない。
本来何を割りあててもいい汎用コントローラのくせしてノブにださださの「Cutoff」「Resonance」なんてプリントしてあるんだから、AI Function でアサインしたコントロール・テンプレート上のノブコントロールを取得してアルペジオ・パラメータとしてパターンシーケンスできる、くらいのことはやってほしいもんだ。

バンドルソフト

概要は前回述べた。基本的にデモ版に毛の生えた内容なのだが、Halione One 用追加音色の Yamaha S90ES 抜粋のピアノはなかなか良い音だった。インストールはガイド PDF で指定されたディレクトリに手動でファイルコピーすることで行うのだが、それだけだとエラーが出て使用できなかった。Syncrosoft License Control Center のバージョンを最新へアップデートすると解決できた。

総評

詰めが甘い。それでも、キーボードとして、DAW コントローラとして、価格面で、などなど様々な条件を満たす唯一の製品だと思っている。対抗の Roland PCR-800 は悪くないがボタン類の配置が残念なのと DAW の連動性が判然としないし、Novation Remote は DLL ラッパー的な動作やドライバ認識プロセスが走るといった挙動に一抹の不安を感じるのと何より価格が高い。満足はできないが納得はした。
AI Function によるソフトシンセコントロールは実際使ってみて革新的な、すばらしい機能だと実感できた。しかしそれ以上に Yamaha の「わかってなさ」にもどかしい思いをさせられっぱなしだ。
なぜ、VSTi ラックにマウントしたソフトシンセで AI Function を使わせてくれないのか、なぜ、コントロールチェンジを最低値から最高値まで音楽的に動かすのにノブを3回転もしなければならないのか、なぜ、ノブがたったの4つでスライダーはないのか、なぜ、エクスプレッションペダルが接続できないのか、etc, etc...
……
Yamaha にはもっと外を見ろと言いたいです。他社の製品の良いところを積極敵的に研究し、より広くユーザーの意見に耳を傾けていれば、また違った形となって KX は生まれていたことでしょう。僕にははっきりと KX の悪い部分を指摘できますが、Yamaha の社内にそれを感じ取り言及できる人間はいるのでしょうか。僕には KX の仕様の随所に見て取れる「風通しの悪さ」が今の Yamaha の社風にそっくり表れているように思えてなりません。もし次の KX が出るとこがあれば、その時はこのもどかしさが消え去っていることを切に願います。

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