頭の中にある天秤

主観とパンニング

あまり実感がないが、中央やや左よりと言ったところか。いえいえ主義思想の話じゃございません。利き手利き足利き目とくれば当然利き耳もあるのだろうが日頃意識する機会はない。僕は受話器を左耳に宛てるがこれは受話器は電話機の左側にあるからだ。だいたいメモを取るなら右手でペンを持つだろうし。小さな音を集中して聴くときに耳に手を宛てる方だという。それなら右になるがそれは利き耳ではなく利き手側の半身が先に動くだけでは。
耳に偏りがあるのは確かな事だ。まずミキシングにおけるパンニングのイメージに偏差がある。ポップスの様に左右で全く異なるパートが存在する場合、一概には言えないが右側にメロディーや細かく動く音、左側にカウンターやたゆたう音を置きたくなる。ピアノ曲のイメージに起因するようでもあるが、よく聴こえる左でメロディーが激しく動くとうるさいようにも感じる。ミックスのLRを入れ替えてモニターすると曲のイメージが激しく歪むことがある。これはミックスの歪みでもあるので、気になる部分には手を加える。

生理学的理由

利き耳の話だった。結局どっちなのだ。手足と目も右ならやはり右なのか。一説には利き手に右側が多いのは心臓のある左半身を盾でかばい右手の槍で獲物を貫くという古代人の狩猟生活から生まれた身体的合理性によるものだそうだが、耳にも同様にフィジカルな必然性が存在するのだろうか。補聴器メーカーサイトのコンテンツ「mimiクラブ」の記述が参考になるので引用させていただく。

携帯電話が急に鳴った時、あなたはどちらの耳で出ますか?

私たちは両方の耳を使っているつもりでも、会話や音楽を聞いている時、実は片方の耳を優先させています。それが、利き耳です。利き耳が左の場合、判断力や記憶力、集中力が落ち、聞き間違えや物忘れすることが多いようです。

耳からの情報は、手足と同じようにクロスして脳の聴覚野に伝わります。言語野は左脳にしかなく言語が右耳から入ると至近距離で伝わりますが、左の耳から入った言語は右脳の聴覚野から左脳の言語野まで遠回りします。その差は100分の1秒。短いようですが、これが言語を認識する上で大きな差を生むのです。

人は本来、話をよく理解できるように利き耳は右で生まれてきますが、ストレスなどで利き耳が左になってしまうことがあります。利き耳を右にするためには、意識を右耳にむけることが大切です。すべての音に右耳を傾けるよう意識すれば、早い人なら2週間程度で効果 がでてきます。
http://www.siemens-hi.co.jp/mimi/q_a_2.html

なんと、脳のメカニズムは右耳に有利にできていた。100分の1秒がどれだけ長いか知っている者は知っている。それだけあれば音は1気圧下で3.4メートル先へ進んでいる。が、先のレイテンシーは音速の話でなく言語野への神経伝達速度の話である。果たして音楽の場合はどうなるのだろうか。それを知るには脳はどこで音楽を処理しているか知らねばならない。その実態は意外なものだった。

意外なことに,音楽を処理する特別な「中枢」は存在しない。音楽を聴くと脳のさまざまな領域が反応するが,音楽の認識や情動的反応など,それぞれで関係する領域は異なる。音楽は脳全体にわたる多数の領域に関連していて,なかには通常は別の認知活動にかかわっているものもある。
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これによれば、脳は音楽情報を言語野など特定の部位で専任処理しているわけではない。そのため、右耳が利き耳の場合、人の話をより理解するのに優位性は生じても、音楽をより理解するのに有意な差があるとは一概に断定できないことになる。

不完全なシンメトリー

さて、そろそろ御託はいい。結局どっちなのか知りたいのだ。自己診断形式テストを掲載した古いサイトを見つけた。
http://www6.wind.ne.jp/miyamoto/ear/
身体測定にペーパーテストもないだろうと思いつつ質問に答えきって出た結果は、指数12%で右利き寄りだった。ほぼ両利きということになる。それならパンニングの歪みは何に起因するのだ。まさか脳のイメージ力に利き方があるわけでもあるまい。調べていくうちに知ったが利き耳への懐疑論が存在している。先のテストサイトによれば、利き耳のある人より無い人の割合が多いからだそうだ。人間の身体は一見シンメトリーの様でその実あちこちに違いがある。内蔵器官が左右非対称なのは常識だし、姿勢などから来るに歪みが各所に点在している。加えて脳機能の非対称。これで利き耳が存在しないとはとても思えないのだが。頭の中にある天秤のネジをしめる方法をぜひ知りたいものだ。